2013年3月30日

国際機関の「祝日」


阿部 達也(教員)


2012年4月からオランダに所在する国際機関で実務に携わっています。


国際機関というとまず思い浮かべるのはそのインターナショナルな要素ではないでしょうか。国際機関の任務は国境を越えたグローバルな問題に取組むことです。個別国家による取り組みでは解決することが困難な問題だからこそ国際機関が設立され活動しているのです。


国際機関の活動は加盟国によって構成される政策決定機関がこれを決定しますが、実際にその活動を実施するのは専門家集団たる事務局となります。事務局にはさまざまな職員が世界各国から集まっています。職員の間で行われる少人数の会合では出席者全員の国籍が異なっていたとしてもそれはごくありふれた日常的な光景です。


このように国際機関―とくに事務局―はその性質上インターナショナルな要素が大きな地位を占めます。もっとも、国際機関には一定の範囲ながら所在地国というローカルな要素があることを忘れてはなりません。これは国際機関が自らの領域をもたずいずれかの国に所在しているという事実に由来します。国際機関とは所在地国があってはじめて存在できる組織なのです。ローカルな要素が最もよく現れる場面の一つとして国際機関の「祝日」について取り上げてみたいと思います。


国際機関にも「祝日」がある


国際機関にも「祝日」というものがあります。国際機関という性格上"national" holidayではなく"official" holidayと呼ばれていますが、要するに土日以外の休日が存在します。働く側の視点に立てば、各国にそれぞれ―日数の差はあれ―土日以外の休日があることからすれば国際機関にも同じような概念があって何ら不思議ではなくむしろ当然のことと言えるでしょう。


それでは、"official" holidayはどのようにして決められるのでしょうか?結論から言うと、「それぞれの国際機関が独自に設定する」というのが答えです。このため所在地国が同じであっても設定された「祝日」は機関によって微妙に異なることになります。


オランダに所在する主要な国際機関を3つ取り上げて2013年の「祝日」をそれぞれ比較すると次のようになります(太字はオランダの祝日と重なっている日を意味します)。

ICTY (旧ユーゴ国際刑事裁判所)
1月1日New Year's Day
3月29日Good Friday
4月1日Easter
4月30日Queen's Day
5月20日Whit Monday
 
8月8日Eid Al Fetr
10月15日Eid Al-Adha
10月24日UN Day
12月25日Christmas Day
12月26日Boxing Day


OPCW(化学兵器禁止機関)
1月1日New Year's Day
3月29日Good Friday  
4月1日Easter
4月30日Queen's Day

5月9日Ascension Day
5月20日Whit Monday
8月8日Eid Al Fetr
10月15日Eid Al-Adha
10月24日UN Disarmament Day
12月25日Christmas Day
12月26日Boxing Day


ICC(国際刑事裁判所)
1月1日New Year's Day   
3月29日Good Friday
4月1日Easter
4月30日Queen's Day

5月9日Ascension Day
7月17日Day of International Criminal Justice
8月8日Eid Al Fetr
9月16日Yom Kippur Day
12月25日Christmas Day
12月26日Boxing Day


「祝日」の日数

「祝日」は何日あるのでしょうか?ICTYとICCは合計10日なのに対して、OPCWは合計11日です。もっとも、OPCWの場合は職員が3月29日と10月15日のいずれかを選択する方式を採用しているので実際には3つの機関いずれもが合計10日ということになります。国際機関の「祝日」の日数は「職員規則(Staff Rules)」または「職員細則(Staff Regulations)」に明示的に規定されています。国際機関の一般的な標準は合計10日のようです。


ローカルな「祝日」

太字の「祝日」に注目すると所在地国であるオランダの祝日と重なっている日の多いことが分かります。OPCWは7.5日(3月29日と10月15日をそれぞれ0.5日と換算)、ICCとICTYは7日が重複しています。実際的な問題として所在地国が祝日の日に仕事をするのは効率的ではないでしょう。「祝日」の設定にあたってはローカルな要素が大幅に考慮されているのです。4月30日は「女王陛下の誕生日」でオランダ固有の祝日。オランダでは文字通り国を挙げてこの日を祝います。今年はベアトリックス女王の退位とウィレム・アレクサンダー皇太子の即位というビッグイベントが控えています。3月29日、4月1日、5月9日、5月20日、12月25日、12月26日はいずれもキリスト教に由来する祝日。オランダに限らずヨーロッパでは多くの国で祝日とされています。


インターナショナルな「祝日」

これに対して、オランダの祝日と重ならない国際機関の「祝日」はOPCWは2.5日、ICCとICTYは3日あります。このうち8月8日は3つの機関すべてで、10月15日は2つの機関で、それぞれ「祝日」とされています。いずれもイスラム教に由来するものです。国連は1998年に採択された総会決議で両日を「祝日」とすることに決定しました。ICTYは国連の機関ですから当然「祝日」になるわけですが、他の国際機関もこの国連の慣行に影響を受けていると言えるでしょう。10月24日は国連憲章が発効した日です。ICTYでは「国連の日」として、OPCWでは「国連軍縮の日」としてそれぞれ「祝日」となっています。ICCの場合は設立文書「国際刑事裁判所に関するローマ規程」の採択された7月17日を「国際刑事司法の日」として「祝日」にしています。インターナショナルな要素にも配慮しなければならないのは国際機関が国際機関であるがゆえのことでしょう。


おわりに:日本人は休みすぎ!?

国際機関の「祝日」を取り上げてみましたが、ふと我に返ってみると日本には祝日が何日あったでしょうか?答えは合計15日です。祝日の日数は国際機関の標準に比べても(そしてオランダに比べても)多いのです。この事実は意外に思われるかもしれません。さらに付け加えるならば、日本には祝日以外にも年末年始とお盆の期間の「事実上の休日」が存在します。これを加えると年間で20日を超える日が休みになっているのです。

働きすぎと言われる日本人ですが、土日以外の休日(「事実上の休日」を含む)だけをとってみると、実際には相対的に大きな恩恵に預かっているといえそうです。もっとも大学関係者は必ずしもその恩恵に預かっていないのですけれど・・・。





Category: from Netherlands
Posted by sipec at 15:52 | Comments (0) | TrackBack (0)
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